ドイツでよく食べられているパンは、黒みがかり、歯ごたえがあって、酸味も感じられます。そのパンの正体は、ライ麦パンです。ライ麦を原料にしたパンは小麦粉が主原料のパンよりも、黒っぽくなり、固くなり、酸味もあります。
でも、固くて酸味があるパンなんてあまりおいしそうには聞こえませんよね。
私もドイツに来た当初、見た目からすると健康に良さそうだけれど、おいしいのかなと疑心暗鬼でした。
ところでこのライ麦系のパンは、どうして黒くなり、歯ごたえもしっかりしていて、酸味もあるのでしょうか。その理由は、ライ麦パンを作る工程や材料と大きく関わっています。
そこでこの記事では、ライ麦系のパンの特徴と、黒みがかっている理由や酸味がある理由を解説します。
ライ麦系のパンに興味のある方、またこれからドイツにいらっしゃる予定の方は、参考にしてみてください。
〇 ドイツのパンが黒くて固い理由を知りたい方。
〇 ライ麦系のパンと小麦粉系のパンの違いを知りたい方。
〇 ドイツのパン屋にはどんな種類のパンが売られているのかを知りたい方。
ドイツのパンの特徴とは?
パンが黒い!「ライ麦系のパン」が愛される
ドイツでは黒みがかっている「ライ麦系のパン」が好まれています。
ライ麦系のパンは表面は固く、身がギュッと詰まったような噛み応えのあるパンです。その味はほんのりと酸味もあり、独特の食感と味わいがあります。
そうなんです!
日本でよく食べられるパンとはだいぶ違うパンなのですが、ドイツではそんな黒いパンが主流です。
ドイツではライ麦系のパンが主流
ドイツパン研究所(Deutsches Brotinstitut e.V.)の発表によると…
この表から分かることは一番よく作られているパンが「ローゲンミッシュブロート(Roggenmischbrot)」と呼ばれるライ麦を主原料にして小麦粉を混ぜたパンです。
次が「ヴァイツェンミッシュブロート(Weizenmischbrot)」で、小麦粉を主原料にライ麦を混ぜたパンになっています。
3番目に人気の「フォルコーンブロート(Vollkorn)」は全粒粉のパンなので、主原料がライ麦の場合と小麦粉の場合があります。黄色の4番目には「ローゲンブロート(Roggenbrot)」が続きますが、これはライ麦が90%以上使われたパンです。
こうして見てくると、ドイツではライ麦が使われているパンがよく食べられているのがわかりますね。
パン屋にもたくさんの種類のライ麦パンが売られています。
なぜドイツのパンは黒いの?
ドイツのパンが黒い理由はライ麦の精製度が低いから
ドイツパンが黒い理由は、原料に使われているライ麦と、その精製度に秘密があります。
ライ麦はもともと黒味がかかっています。その上、そのライ麦を皮や胚芽が残すように精製度を低くしているので、焼きあがったパンは黒くなります。
言い換えれば、ライ麦でも精製度を高くすれば、ドイツのパンとして知られているライ麦系のパンほどに黒くなりません。
ライ麦とは越年草で2mにも伸びる背の高い植物
そもそも「ライ麦」とはどのような麦なのでしょうか。
ライ麦とは、イネ科の越年草です。越年草とは、秋に発芽して冬を越し、春になると開架したり身を付けたりする植物です。
ライ麦の実は小麦の実と似ているのですが、ライ麦の方が細長いです。またライ麦の背丈は約2mにも伸びる背の高い植物です。
1℃~2℃という低い気温でも発芽できるため、ライ麦はヨーロッパやアメリカなどの寒冷地で栽培されています。日本でも北海道で栽培されている植物です。
ライ麦は栄養価が優れている
パンの原料として使われるだけでなく、ライ麦はウイスキーの原料として、また飼料としても使われています。
ライ麦は小麦粉を比べると栄養価が高いと言われているのですが、ライ麦と小麦粉を比べたときに特出すべき点は次の通りです。
- 食物繊維は小麦粉の約5倍
- マグネシウムやリン、亜鉛、ビオチンが小麦粉の2倍以上
- 鉄は小麦粉の3倍
食物繊維は便秘の解消に有効的
食物繊維はエネルギー源にはならないものの便秘の解消に有効的だとされている成分です。
ライ麦には、食物繊維の中でも水に溶ける水溶性食物繊維と水に溶けない不溶性食物繊維の両方がバランスよく含まれています。
マグネシウムはカルシウムをサポートする働きも
マグネシウムは筋肉を収縮させたり、神経を鎮めたりする作用のある成分です。骨からカルシウムが溶けだすのを防ぐというカルシウムをサポートする働きもあります。
亜鉛は皮膚や髪の毛の健康を助ける
亜鉛は細胞の増殖を助けるミネラルで、皮膚や髪の毛の健康を助ける働きがあります。亜鉛は不足しやすい栄養素なので、積極的に取りたいミネラルです。
ビオチンは皮膚や髪の毛の健康を助ける
アミノ酸の代謝を促す作用があり、皮膚や髪の毛の健康を助けるビタミンです。
鉄はストレスや病気への抵抗力を高める
鉄は肉や魚、豆類などに多く含まれるミネラルで、酵素の活性化をうながします。筋肉の収縮運動を助けて、ストレスや病気への抵抗力も高めると言われている成分です。
栄養が高いと言われると、食べたくなってきます。
なぜドイツパンは固めなの?
ドイツパンが固い理由①グルテンフリーだから
ドイツパンの歯ごたえがしっかりしている理由は、ライ麦を使ったパン生地はグルテンを含まないからです。
小麦粉のようにグルテンが含まれているパンは膨らんで、パンもふかふかで、柔らかく仕上がります。しかし、ライ麦ではグルテン形成されにくいためパンは膨らまず、密度が濃くなって固くなります。
なぜライ麦はグルテンを形成しないのか
グルテンが形成されない理由は、ライ麦にはグルテンを形成するためのグルテニンを持っていないからです。
グルテン形成にはグルテニンとグリアジンという2つのタンパク質が必要です。しかしライ麦にはグリアジンしか含まれていないので、グルテンが形成できないのです。
そのため、ライ麦パンはグルテンを形成しないので、ライ麦だけを使ったパンはグルテンフリーになります。
ドイツパンが固い理由②ペントザンが水分を吸収してしまうから
また、ライ麦を原料にしたパンが固くなる理由として、「ペントザン」という繊維質も挙げられます。ペントザンは吸水性を特徴としているので、粉同士を結び付けるための水分を奪ってしまいます。
ライ麦にはこのペントザンが小麦粉の3.5倍以上含まれているため、しっかりと固いパンに焼きあがるのです。
ライ麦パンでもグルテンアレルギ―の人は要注意
ライ麦パンはグルテンフリーなのですが、グルテンのアレルギーを発症させないというわけではありません。ライ麦はグルテンを形成するためのタンパク質のひとつ「グリアジン」は持っているので、それが原因となりアレルギー反応が出てしまう人がいます。
また、ライ麦100%でパンを作ったら固く重いパンになるため、ライ麦に小麦粉を混ぜたパンが多く作られています。ただ主原料がライ麦だから「ライ麦パン」という商品名で売られていることもあります。
特にグルテンアレルギーが過敏な人は、商品名だけでグルテンフリーだと信用しないようにしましょう。
なぜドイツパンは酸味があるの?
ライ麦の天然酵母「サワー種」に酸味があるから
ドイツのパンの酸味は、ライ麦の天然酵母「サワー種」が使われているからです。ドイツ語では、「ザワータイク(Sauerteig)」と呼ばれています。
「サワー種」ははライ麦と水を混ぜておくことで、粉や空気中にあった酵母が発酵して作られます。この発酵の過程で乳酸菌が発生し、この乳酸菌に酸味があります。
パン好きのお土産に「サワー種」はありかも
日本ではサワー種を手に入れることは難しいかもしれませんが、ドイツではリフォームハウス(Reformhaus)やビオ(BIO)と呼ばれる有機食品を専門的に取り扱うお店でサワー種を購入できます。
例えば、Hensel社のサワー種は150gのパッケージで2€(約250円)ほどで売られています。
こうした市販のサワー種を使えば、ご自宅で酸味のあるライ麦パンを焼くことができます。
市販のサワー種は開封しなければ20℃以下の室温で1年以上持ちますから、パン作りが趣味のお友達へのドイツ土産にもいいかもしれませんよ。
まとめ
ドイツではライ麦系のパンがよく食べられていて、ライ麦パンの特徴を紹介しました。
黒くて酸味があるなどの特徴のあるライ麦パンのその理由は次の通りです。
- ライ麦パンが黒い理由:ライ麦自体が黒みがかり、精製度が低いから。
- ライ麦パンが固い理由:グルテンフリーで、ペントザンが水分を吸ってしまうから。
- ライ麦パンが酸っぱい理由:天然酵母のサワー種に酸味があるから。
- ライ麦パンの保存性が高い理由:サワー種が含む乳酸菌と酢酸菌がカビの増殖を抑えるから。
このようにライ麦パンは見た目や食感、味も独特の風味がありますが、ミネラルも豊富に含まれているパンなので、おすすめの食品です。
最初は抵抗のある味かもしれませんが、慣れてくれば手放せなくなるパンでもあります。
ドイツにいらしたときには、また日本でもライ麦パンをパン屋で見かけたら、ライ麦パンを試してみてください。